薬剤師賠償責任保険へ加入する必要はあるのか
薬剤師賠償責任保険という薬剤師の賠償責任に関する保険があります。この保険へ加入することで調剤過誤や処方箋のミスを見過ごしたときなどに生じる賠償責任の補償をしてもらえることがあります。そこで今回は賠償責任が必要な事例や補償の範囲・個人で加入する方法などをまとめました。
薬剤師賠償責任保険とは
薬剤師賠償責任保険とは薬剤師が働いている病院や調剤薬局といった医療機関・ドラッグストアなどでミスをしてしまった時に利用する保険です。具体的には薬剤師の服薬指導ミスで患者が体調を崩して入院した場合や薬剤を誤って混ぜて注射してしまうなどの調剤過誤・処方箋のミスを見過ごしてしまった場合などで患者へ損害を与えてしまった時に発生する賠償責任に関する保険です。薬剤師のミスで患者に入院が必要になった場合、入院費や通院費・慰謝料などの賠償金が発生します。薬剤師賠償責任保険に加入しておくと、このような場合に補償を受けることが可能になります。
投薬や服薬指導などでミスしてしまう可能性はゼロではないので、経験豊富で細かな部分まで丁寧に作業している場合もミスしてしまう事があります。薬剤師賠償責任保険は万が一の事態に備えるための保険です。
賠償責任が必要な事例
調剤過誤
薬剤を注射する際に薬剤を混ぜて注射することを混注と言います。この時、誤った薬剤で混注してしまい、患者の容体が悪化してしまったり死に至ってしまったり、薬剤師の投薬ミスによって患者に重い副作用が起きてしまったりした場合、個人や医療機関・またはその両方に対して賠償責任が科せられることがあります。
また、ドラッグストアの薬剤師も市販薬を服用した際の副作用のトラブルが発生した場合にも責任を問われることがあります。
処方箋ミスを見過ごした
薬剤師に賠償責任が問われるのは、薬剤師がミスをして患者が健康被害を受けた場合だけではありません。医師が患者へ出した処方箋にミスがあり、それを薬剤師が見過ごしてしまった場合は薬剤師も医師と一緒に連帯責任を負うことになります。複数の薬剤師が調剤を分担して行った場合、調剤過誤が起きてしまうと調剤に関わった薬剤師全員が損害賠償責任を負うことになる場合もあります。
補償されるのはどんなとき?
医薬品や化粧品・医療用具などの販売をしたことで生じた賠償事故、勤務先の会社が所有もしくは管理している設備や施設による賠償事故が起きた時も対象となります。
また、医薬品等を処方する時の服薬指導や訪問服薬指導等で患者へ渡した薬や医薬品などの情報提供をした結果で生じた賠償事故などで補償が受けられます。
また、患者から一時的に預かった財物の滅失や棄損・盗取などが起きてしまった場合も賠償事故の補償を受けることができます。
加入した保険との契約によって対象者が管理薬剤師のみだったり全員が対象となっていたりして、補償の範囲が異なります。自分が加入している保険はどこまで保証してもらえるのかをよく確認しておきましょう。
補償内容の詳細
日本薬剤師会の場合(2025年時点)
| プラン | 基本プラン |
|---|---|
| 保証内容 | 〇医薬品・商品等に関わる事故 調剤した医薬品や販売した商品等によって、また、患者・消費者に対して行った誤った情報提供によって、患者・消費者の身体を害したり、財物を損壊した場合の損害賠償金、弁護士費用など 〇初期対応弁護士費用(※1) 患者・消費者に健康被害が発生するおそれがある場合、患者・消費者の対応について相談する弁護士費用 |
| 保証金額 | 1.5億円 |
| 保険料 | 3,600〜30,600円 |
(※1)初期対応弁護士費用とは、初期対応弁護士費用に関する追加条項のこと
https://www.nichiyaku.or.jp/files/co/about/panfuh2025.pdf
日本保険薬局協会の場合(2025年時点)
| プラン | 店舗契約 |
|---|---|
| 保証内容 | 次の業務に起因して、保険期間中に日本国内において発生した事故について、被保険者が法律上の賠償責任を負担した場合 ①薬剤師賠償責任保険 薬剤師業務、施設、施設の用法に伴う薬剤師業務以外の仕事 ②施設危険担保特約条項 施設、被保険者が遂行する施設の用法に伴う仕事(薬剤師業務を除く) |
| 保証金額 | 薬剤師賠償責任保険:対人・対物賠償共有1.5億円/1事故(保険期間中4.5億円) 施設危険担保特約条項:対人31名千万円/1事故、対物750万円/1事故 |
| 保険料 | 260〜3,130円(補償開始日によって異なる) |
https://secure.nippon-pa.org/pdf/insurance/pamphlet2024.pdf
日本病院薬剤師会の場合(2025年時点)
| プラン | 店舗契約 |
|---|---|
| 保証内容 | 【薬剤師特約条項】①損害賠償金(治療費、慰謝料、休業補償等)②訴訟になった場合の訴訟費用、弁護士報酬(※2損保ジャパンの事前承認要)③被害者に対する応急手当、緊急措置等を行った場合の損害防止費用。ただし、1階の事故について損害賠償金は保険金額を限度とする。損害賠償金の金額が保険金額を超える場合の訴訟費用等は保険金額の損害賠償金に対する割合となる。 【刑事弁護士費用担保条項】被保険者が施設の業務として行った医療業務の対象者が死傷した場合において、被保険者が業務上過失致傷罪の疑いで送検されたときにかぎり、被保険者がその刑事事件に係る弁護士費用または訴訟費用を負担することによって被る被害に対し保険金を支払う |
| 保証金額 | 医薬品等に係わる事故による身体賠償、対応に要する弁護士費用:1事故1億円/1年間3億円 医薬品等に係わる事故以外での業務遂行中の事故による身体・財物賠償:1事故5,000万円 患者の人格権侵害に対する補償:1事故・1年間300万円 刑事弁護士費用担保条項:保険期間(1年間)を通じて500万円 |
| 保険料 | 770〜2,300円(補償開始日によって異なる) |
※2 保険金額の枠外で支払われます。
https://www.jshp.or.jp/banner/hoken/hoken-2025.pdf
個人での加入が必要なのか
勤務先は加入しているか
現在の勤務先で自分が薬剤師賠償責任保険に加入しているかを確認しましょう。勤務先の方針や規模によっては、正社員は加入して派遣社員・パート・アルバイトは加入が任意という形で雇用形態により異なっている場合があります。しかし、調剤事故を起こしたのが正社員であっても派遣社員であっても、雇用形態に関係なく責任を問われます。そのため、薬剤師賠償責任保険に加入することが基本となっています。加入しているかどうかが分からない場合は早めに確認しておきましょう。
加入していた場合は内容を確認する
勤務先が薬剤師賠償責任保険に加入していた場合は、加入している保険の種類を確認しましょう。保険の種類によって対象者が異なり、現場の責任者の管理薬剤師のみが対象という場合もあります。勤務先が加入している場合は必ず対象者に自分も入っているかを確認しておくことが大切です。
薬剤師で他の医療機関やドラッグストアなどへ転職希望の場合は、応募する際に薬剤師賠償責任保険に加入している会社か、どのような種類に加入しているかを確認しておきましょう。
個人で加入するには
薬剤師会の会員となって保険に加入する
個人で加入する方法としては日本薬剤師会や日本病院薬剤師会などの薬剤師会に入会し、それぞれの薬剤師会が提供している保険に加入する方法があります。入会することで薬剤師賠償責任保険に加入手続きを行うことができます。この方法の場合は、保険料の外に年会費の支払いも発生し、地域ごとに手続きが異なります。
民間の損害保険会社の保険に加入する
個人で加入する方法として民間の損害保険会社が取り扱っている薬剤師賠償責任保険に加入するという方法があります。薬剤師会からの保険加入は、前提となる団体へ入会手続きが複雑で手間がかかってしまう事があります。面倒な手続きを避けたい方は民間の損害保険会社の保険へ加入することも検討してみましょう。
安心して働くためのリスクヘッジとして加入は必須
薬剤師は医師や看護師と同じように医療にかかわる仕事のため、場合によってはミスで患者の命にかかわる事態に発展することもあります。しかし、どんなに気を付けていてもミスをしたり責任を負ったりするリスクをゼロにするのは難しいです。安心して日々の業務を進めるためにも保険に加入して安心して働けるようにしておきましょう。勤務先が加入している場合も、加入している保険の種類を確認して自分は対象になっているかをチェックして、リスクヘッジにつなげられるようにしておきましょう。