2025年問題は薬剤師の働き方にどのような影響を与えるのか?
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超高齢化社会となった現在の日本では、医療の分野において社会保障費の急増に関する問題が懸念されています。日本ではほぼすべての国民が何かしらの保険に加入しており、保険に加入していれば、いつでもどこでも医療を受けることができるのです。しかし、近年は高齢者の増加や医療従事者の人材不足によって、医療費と医療現場がひっ迫しています。ここでは、2025年問題が与える薬剤師の働き方への影響について解説していきます。医療・介護業界に与える影響や、薬剤師に与える影響と期待される役割についてまとめました。
2025年問題とは

2025年問題とは団塊の世代(1947年~1949年)に生まれた方々が75歳以上の後期高齢者になることで起こる問題を意味します。戦後の第一次ベビーブームで生まれた団塊の世代は約800万人ともいわれており、2025年には国民の約4分の1が後期高齢者になるともいわれているのです。そこへ65歳以上の高齢者世帯も含めば、その数はさらに増加します。
高齢化が急激に加速すると、社会保障費も比例して増加するでしょう。一方で社会保障を支える現役世代は減少傾向にあるため、社会保障のバランスがぐずれてしまう恐れがあるのです。
医療・介護業界にどのような影響がある?
医療分野
医療分野においては、医師や看護師の人手不足が問題となっています。人手不足は地方都市を中心に広まっており、地方在住では適切な医療、質の良い医療を受けられなくなってしまうことが懸念されるでしょう。
高齢になると体に変化が起こります。免疫力や調節機能の低下、筋力の低下、骨密度の低下など。身体の機能が低下するため病気やケガをしやすく、医療機関を利用する頻度や処方される薬の量が増加する傾向にあります。高齢者の医療費負担は、現役並みの所得者でなければ1割です。医療費は国や自治体の財源で賄われていますが、高齢化が進み高齢者の割合が増えれば財源に占める医療費の割合も大きくなってしまうでしょう。
介護分野
介護分野では、介護サービスを受けるための費用負担を利用者が1割負担、残りを公費と保険料で負担されています。そのため、介護サービスを受ける人が増えれば、公費と保険料で賄う負担が大きくなり、財源の確保が難しくなることが懸念されます。
介護を担う人材不足も問題です。現段階でも必要とされる介護職員の数に対して介護職員の数は不足しており、人材の育成と確保に向けた取り組みが重要視されています。今後は介護施設や病院への高齢者の受け入れが困難になることが予想されており、在宅での介護・看取りができる体制も整える必要があるでしょう。
社会保障費
医療や介護を利用する後期高齢者が増加する一方で、社会保障を支える現役世代は減少しています。団塊の世代が後期高齢者となる2025年には、より厳しい状況となることが予想されます。
社会保障費の問題は医療費だけではありません。もう一つの大きな問題が、年金システムです。日本の年金システムは高齢者に給付するための資源を現役世代の保険料で賄われています。年金を受給する高齢者が増加する一方で保険料を納める世代が減少してしまうと、社会保障制度にも大きな影響を与えることになるでしょう。
国がおこなっている対策はある?
地域包括ケアシステムの構築
地域包括ケアシステムとは、住み慣れた地域で最期まで自分らしく暮らせるシステムのことです。在宅診療や在宅介護を受けられる仕組みを整え、本人の心地よい環境づくりと医療従事者・介護従事者への負担を軽減。同時に医療費の抑制も期待できます。
地域包括ケアシステムでは、薬剤師の役割にも大きく期待されています。高齢者の病気を予防するためにも、地域と連携した薬局で働く薬剤師には重要な役割があるのです。
医療・介護人材の確保
人材不足が心配される医療・介護業界では、人材育成と確保のためにさまざまな取り組みが進められています。
2019年には、技能・経験のある介護職員の処遇改善を目的に、介護職員等特定処遇改善加算が導入されました。これにより、勤続年数10年以上の介護福祉士については、月額平均8万円相当の処遇改善が行われます。2025年問題に向けて、介護職員が働きやすい環境を整備するために作られた形式です。
公費負担の再検討
政府は医療や介護、年金、労働などの各分野における改革を検討しています。一般的な後期高齢者の医療費の窓口負担は1割ですが、一定の収入がある後期高齢者については2割に引き上げる方針が2021年に決定されています。
薬剤給付についても、保湿剤やシップなどに対する公費負担の再検討が行われています。
薬剤師に与える影響や期待される役割とは
地域包括ケアシステムの活用
高齢者が住み慣れた地域・住み慣れた環境で人生の最期まで過ごせるよう、地域包括ケアシステムの構築が進められています。薬局は地域医療の窓口として、薬や健康の相談ができる場所として活用されることが予想されます。
地域包括ケアシステムでは「予防」も重要なポイントです。薬剤師も含めた地域の医療や介護サービスが協力し合いながら、高齢者の健康状態を把握できる環境を作り上げる必要があります。地域連携薬局やかかりつけ薬剤師も、薬剤師として大きく期待されています。
薬局としての役割
薬局としては、患者さんの服薬情報の把握・24時間対応・在宅対応といった機能が求められています。医療機関との連携を図り、薬の相談や健康をサポートする役割としても期待されるでしょう。薬局で働く薬剤師には地域医療との連携や患者対応、病院薬剤師には薬局薬剤師との連携やチーム医療としての役割が期待されます。
薬局としては、2025年問題に突入するまでにすべての薬局でかかりつけ薬局としての機能・役割を発揮できることが求められています。
予防医療・セルフメディケーション
近年は予防医療に力を入れる医療機関も増え、国民の間でも軽度な体調不良は自分で直すセルフメディケーションが浸透しつつあります。薬剤師においては、健康相談窓口としての役割が求められます。セルフメディケーションに対する健康アドバイザーとしての役割や、生活習慣・健康食品に関するアドバイスも求められます。単に薬を処方するだけではなく、健康をサポートし病を予防する力が必要です。
ひとりひとりが予防医療に力を入れることで、健康な状態を維持し、医療機関の受診の手間と通院にかかる時間を削減。医療費の削減にもつながります。そのためには薬剤師のサポートが必要です。
在宅医療・在宅介護の支援
地域包括ケアシステムを担う一員として、薬剤師の力が必要になります。在宅医療、在宅介護を受ける患者さんへの薬剤管理、健康管理、医療機関との連携など、薬剤師が担う役割はさまざまです。ICTの発達によって、医療機関・介護職員などとの連携も進められています。
薬剤師が在宅訪問サービスに介入することで、薬の飲み忘れの予防や飲みすぎを防ぎ、適切な服薬を促すことができます。その結果、医療機関への負担を軽減するだけでなく、患者さんのQOL(生活の質)の向上にもつながるでしょう。
医療費削減への貢献
医療費削減に向けてのアドバイスや提案、ジェネリック医薬品の促進などが求められます。処方カスケードや残薬問題の解消も必要とされます。
セルフメディケーションのサポートの一環として、処方箋がなくても購入できるOCT医薬品の知識習得が求められます。自己治療できるものや経過観察できるものに関してはセルフメディケーションで対応することで、医療費に関する問題に対応していくことが可能です。