薬薬連携とは
安心できる薬物療法を患者さんに継続的に提供するためには、入退院や他施設受診などの場面において「薬薬連携」が必要不可欠です。ここでは「薬薬連携」について、概要や重要性に加えて、トレーシングレポートや地域連携薬局といった具体的な取り組み、2024年度診療報酬改定を踏まえた動向、そして課題と対策までをわかりやすく紹介します。
薬薬連携とは
「薬薬連携」の概要
「薬薬連携」とは、薬局薬剤師と病院薬剤師が情報を共有することで、入院・退院をしたときにも充実した医療が受けられるようサポートを行うことをいいます。患者さんの入院時や退院時には服用薬の内容が変化しやすくなるため、適切な投薬が行えるよう薬剤師同士の連携が必要になります。共有する情報の例としては、入院時に服用している薬剤の種類や服用量、既往歴や副作用歴、アレルギーの状況、入院中に追加となる薬剤、アドヒアランスの情報のほか、普段から使用している一般用医薬品や健康食品などがあります。
薬薬連携が重要視される背景
薬薬連携は、入退院を繰り返しがちな高齢者が「ポリファーマシー(多剤併用による弊害)」に陥ることを防いだり、がん患者さんに質の高い外来化学療法を提供したりするうえで欠かせない取り組みです。複数の医療機関を受診する患者さんが増えるなか、薬局と病院の薬剤師が情報を共有して適切な対応をとることの重要性は年々高まっています。国も、診療報酬と医薬品医療機器等法(薬機法)の両面から、薬薬連携の強化を後押ししています。
薬薬連携の具体的な取り組み
薬薬連携を進めるための具体的な取り組みには、さまざまなものがあります。代表的なものを見ていきましょう。
お薬手帳・施設間情報連絡書の活用
薬薬連携の身近な取り組みのひとつが、お薬手帳です。医療機関ごとの処方や検査値などを時系列で記載でき、簡易に利用できるツールとして多くの患者さんに利用されています。ただし、お薬手帳はサイズの制約からすべての情報を伝えきれない場合があるため、そうしたときには「施設間情報連絡書」を用いることもあります。これは患者さんの同意を得たうえで、次に受診する医療機関の関係者へ伝えたい内容を記載するものです。
トレーシングレポート(服薬情報提供書)の活用
近年、薬薬連携の取り組みとして広がっているのがトレーシングレポート(服薬情報提供書)の活用です。トレーシングレポートとは、薬剤師が患者さんの服薬状況や副作用、体調の変化などの情報を処方医と共有するための文書で、施設間情報共有書とも呼ばれます。たとえば東京都薬剤師会では、一般用と抗がん薬治療用の2種類の「都薬版トレーシングレポート」を用いた事業を展開し、薬局から病院へ積極的に服薬情報を提供できる環境を整備しています。石川県薬剤師会でも、薬局薬剤師と病院薬剤師の情報共有を目的としたトレーシングレポートの活用が推進されています。
経口抗がん薬治療での連携
外来でのがん化学療法では、薬局薬剤師が患者さんへ電話で連絡し、あらかじめ病院と定めたプロトコールのチェック項目を確認したうえで、その結果をトレーシングレポートとして病院にフィードバックする取り組みが行われています。副作用の早期把握や重篤化の防止につながる、薬薬連携の代表的な取り組み事例です。
地域勉強会・退院時共同指導
地域勉強会や研修会を通じて薬局薬剤師と病院薬剤師が連携するケースや、退院時共同指導(退院時地域連携)を活用することで、薬局薬剤師が病院薬剤師に直接問い合わせやすい環境をつくる取り組みも見られます。また、院外処方箋を通じた薬薬連携に取り組む医療機関も増えています。
ICT・電子処方箋の活用
ICTの活用も薬薬連携を支える重要な取り組みです。クラウド型の電子薬歴管理システムを使い、チャットやビデオ通話を組み合わせて服薬情報を一元管理し、服薬フォローアップにつなげる事例があります。さらに、電子処方箋の普及により、重複投薬や併用禁忌のチェック、処方・調剤情報の共有が進み、薬薬連携の基盤が強化されつつあります。
薬薬連携を支える認定制度「地域連携薬局」
薬薬連携の取り組みを制度面で支えているのが、2021年8月に施行された「地域連携薬局」「専門医療機関連携薬局」という認定制度です。
地域連携薬局とは、患者さんの入退院時や在宅医療において、地域の医療機関や施設等と連携し、服薬情報を一元的・継続的に共有できる薬局に対する認定制度です。休日・夜間の調剤体制や在宅医療への対応など、かかりつけ薬局としての基本姿勢が求められ、都道府県知事の認定を受ける必要があります。認定件数は年々増加しており、厚生労働省の資料によると2025年(令和7年)3月末時点で全国4,208軒が認定されています。専門医療機関連携薬局は、がんなどの専門的な薬学管理に対応できる薬局を認定する制度で(同時点で208軒)、より高度な薬薬連携を担う存在として位置づけられています。
※参照元:厚生労働省「認定薬局(地域連携薬局、健康増進支援薬局)について」(第14回 薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会 資料)(https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001489134.pdf)
2024年度診療報酬改定と薬薬連携
薬薬連携は国全体としても後押しが進められており、診療報酬改定のたびに関連する評価が見直されています。2024年度診療報酬改定では、医療機能の分化・強化・連携の推進が大きなテーマとなり、医師・病院薬剤師と薬局薬剤師の協働による医薬品の適正使用の推進が盛り込まれました。薬薬連携に関わる主な見直しは次のとおりです。
- 服薬情報等提供料の再整理:1・2・3の区分に整理され、服薬情報等提供料2はイ・ロ・ハの3つに細分化されました。情報提供先として「リフィル処方箋の処方医」「介護支援専門員(ケアマネジャー)」が追加され、薬局から関係機関への情報提供がより評価されやすくなりました。
- 特定薬剤管理指導加算の見直し:外来がん化学療法での医療機関との連携を評価する加算2に加え、加算1が「イ・ロ」に分かれ、加算3が新設されました。なお2025年4月の改定では、加算3ロの点数が5点から10点へ引き上げられています。
- 連携強化加算の見直し:災害や新興感染症の発生時にも地域の医薬品供給体制を維持できる薬局を評価する加算で、2024年度改定で要件・点数が見直されました。
- 退院時共同指導料:保険薬局の薬剤師がビデオ通話により共同指導を行った場合でも算定が可能とされ、オンラインでの薬薬連携が進めやすくなりました。
これらの見直しは、薬局が地域医療の担い手として、医療機関との連携をより実践しやすくするためのものです。
薬薬連携の現状と課題
薬薬連携を通じて地域医療への貢献・発展を遂げていくためには、いくつかの課題が残されています。
まず挙げられるのが、薬局薬剤師・病院薬剤師のいずれか、または双方における人員リソース不足です。それぞれの薬剤師には日常業務があるため、薬薬連携の重要性を理解していても、実際に取り組む時間を確保するのが難しいという声が少なくありません。
また、入院時に持参薬を確認する際、お薬手帳の情報が最新でなかったり、用法・用量・規格が不明瞭で参考にしづらかったりするケースもあります。病院薬剤師から提供される情報が少ない場合には、患者さんへの説明で食い違いが生じる可能性もあります。さらに、個人情報の取り扱いという課題もあり、患者さんのプライバシーを脅かすことのないよう情報を適切に管理していく必要があります。こうした課題に対しては、ICTやAIなどの技術を活用した業務効率化や情報管理の強化が期待されています。
薬薬連携を推し進めるための対策
さまざまな課題が残る薬薬連携ですが、スムーズな連携を実現するための対策も打ち出されています。
すぐに始められる取り組みとしては、地域の医療関係者を集めて行う勉強会や研修会があります。「病院薬剤師との接点をつくる」ことを目的に、研修会のあとに名刺交換や歓談を行い、地域での人脈を広げていくことが、薬薬連携を推進する第一歩になります。薬局からの疑義照会であっても、人となりが分かっている相手からの相談であれば、病院側も親身に対応してくれる可能性が高まります。患者さんへの服薬指導で迷ったときや、トレーシングレポートへの返信が届かない場面など、さまざまな場面で人脈が活きてきます。
あわせて、トレーシングレポートの書式統一やICTを活用した情報共有基盤の整備を進めることで、属人的な連携から、組織として継続できる連携へと発展させていくことが重要です。
これからの薬薬連携と薬局の役割
これから在宅医療がますます広がるといわれるなか、薬薬連携の取り組みは一層重要になると考えられます。患者さんの健康管理をしっかりと行うことで、症状の変化への素早い対応や、予期せぬ副作用の防止が可能になります。
薬薬連携は「病院薬剤師」と「薬局薬剤師」が連携する取り組みですから、双方が話をしやすく、コミュニケーションを取りやすい環境をつくることが欠かせません。日々の業務を効率化し、患者さんと向き合う時間や連携のための時間を確保することが、質の高い薬薬連携につながります。調剤監査システムなどを活用して安全性と効率を両立させることも、薬局が地域連携の担い手として役割を果たしていくうえで大切なポイントといえるでしょう。