薬剤師の常駐廃止…何を備えればいい?
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2020年9月の新政権発足に伴い、政府は行政のデジタル化に取り組むことを表明しました。押印廃止や書面・対面の撤廃、常駐・専任義務の廃止、税・保険のデジタル化などが進められており、あらゆる業界で対応が進められています。
中でも「常駐・専任義務の廃止」に関しては調剤薬局に大きく関係する内容となっており、調剤薬局への薬剤師の常駐が不要になる制度改定を目指しています。服薬指導をはじめとした重要な業務を担う薬剤師業界においても、引き続きDX化が進められています。
薬剤師の常駐廃止…政府の意図とは
政府の発表した常駐廃止への工程表
政府は行政手続きや民間で書面や対面での対応を義務付けている規制に関し、デジタル化で代替できるものから撤廃する検討に入り、(1)押印廃止(2)書面・対面の撤廃(3)常駐・専任義務の廃止(4)税・保険料払いのデジタル化の4段階からなる工程表を作成しました。
工程の第2段階である「書面・対面の撤廃」にはオンライン診療・服薬指導が盛り込まれており、さらに第3段階の「常駐廃止」には調剤薬局の薬剤師という内容が盛り込まれています。
昨年に成立した改正医薬品医療機器法(旧薬事法)に服薬指導のオンライン化の解禁を盛り込んだものの、初回は対面での服薬指導を原則とするなど一定の条件が残っており、この規制を改革していくものと思われます。
調剤薬局での薬剤師の常駐廃止は調剤薬局の形態に関わるため、薬剤師の職場環境や働き方に大きく影響しそうです。※参照元:日本経済新聞
(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64798330Y0A001C2MM8000/)
上記は日経新聞の記事です。オンライン診療に関連し、薬剤師の常駐廃止が盛り込まれていることから、薬剤師界隈が騒然としています。
オンラインによる診療や服薬指導があることから、常駐させる必要がないとの判断なのでしょう。新政権発足後はどうしても様々な規制改革が打ち上げられるものですが、まさか薬剤師に影響が及ぶ規制改革が発表されるとは、寝耳に水だった薬剤師や関係者も多いのではないでしょうか。
決して「薬剤師不要」ではない
薬剤師の常駐廃止。言葉だけを見ると「薬剤師はいらない」と判断してしまいがちですが、実際には薬剤師のお仕事の一つである服薬指導をオンラインで行えるようにしようとの規制改革です。
それまで、服薬指導は医師の診療同様、対面が原則でした。しかし、IT技術の進化、さらにはデジタル庁を創設するなど「IT後進国」と揶揄されてきたわが国が、いよいよ様々に方面に於けるデジタル化に本気を出してきたと考えてよいでしょう。
しかし、決して薬剤師という存在そのものに対しての話ではなく、服薬指導をオンラインでというもの。また、あくまでも二回目以降で初回に関しては対面による服薬指導が原則とのこと。それでも、もしも薬剤師の常駐廃止が決定した場合、薬剤師もまた、オンラインによる在宅勤務が可能となります。
オンライン服薬指導に対する準備
オンライン服薬指導は、実は既に既に導入している大手調剤薬局もありますので、決して「全く新しいサービス」ではありません。むしろデジタル化を促進するために、政府・行政が背中を押していると考えてよいでしょう。
そして、服薬指導に限らず、様々なサービスのオンライン化が進んでいますので、今後、オンライン服薬指導はより身近な物へとなるでしょう。
2024年以降の状況について
政策の動向としては「政府の発表した常駐廃止への工程表」のように着実に取り組みが進められることに加え、随時法改正・規制整備が進められています。薬機法改正案として2025年2月に閣議決定された内容によると、オンライン服薬指導後の医薬品交付をコンビニなどで可能にする制度も盛り込まれるなど、より対応の柔軟化が図られています。しかしながら薬剤師の常駐義務撤廃に関しては直接言及されていないという状況ですので、今後の動向にも注目が集まっています。
規制緩和の方向性
これまでは現地での対応・対面での業務などが重視されていた薬剤師業務ですが、オンライン服薬指導の拡大が進められつつあります。現行法においては初回の服薬指導について対面が原則とされていますが、今後の規制改革によってオンライン化が進められる可能性もあります。さらに働き方改革の推進として、薬剤師が調剤薬局に常駐することなく自宅からオンライン指導という形で業務を行う形態も検討されています。このように、薬剤師業界におけるさまざまな規制緩和も進められつつあります。
薬局形態の多様化
医薬品はその種類によってコンビニやスーパーなどの一般小売店では購入できず、薬剤師が常駐している薬局などでのみ購入することができるものもあります。これはより安全に医薬品を消費者へ届けるための仕組み・制度ではありますが、その反面購入を希望する消費者にとっては不便さを感じる要因にもなっています。そんな中コンビニでの薬剤交付への取り組みも進められています。オンラインでの指導を受けた後、コンビニなどで薬を受け取ることができるようになる制度が2025年以降に導入予定となっています。また、常駐調剤業務と服薬指導を分離し遠隔地の薬剤師が指導を担当するような常駐不要薬局という形態も想定されています。
影響と課題
メリット
これらの取り組み・制度改革が進められることにより、地方や過疎地などにおける薬剤師不足の解消が期待されます。特に地方では少子高齢化が顕著に進んでおり、遠方まで自ら赴かなければ医薬品を購入できないという事態の発生も想定されてしまいます。しかしオンラインの活用などにより購入しやすい環境が整備されるのであれば、医療アクセスの改善が期待できます。また、テレワークの活用により柔軟な勤務形態を実現することでワークライフバランスの向上も期待されます。
デメリット
便利になるというメリットがある反面、対面機会が減少することによりこれまで気軽にできていた相談機会が減少してしまうというデメリットもあります。さらにオンライン指導による処方ミスやコミュニケーション不全に伴う品質維持の難しさも課題として想定されています。制度改革や規制緩和はこういったデメリットとも表裏一体になることから、メリットとデメリットをきちんと見極めたうえで判断する必要があります。
今後の展開
団塊の世代が後期高齢者となる2025年は「2025年問題」とも呼ばれており、今後在宅医療や遠隔調剤の需要が増加する一つのタイミングであるとされています。これに対応するため、規制緩和は今後加速していく想定となっています。厚生労働省では「オンライン指導の質担保」「常駐廃止後の責任範囲」「コンビニ委託時の安全管理」などといった課題を検討しており、これらが制度設計における焦点になると考えられています。
現状、足元では完全な常駐廃止までの制度改革・規制緩和には至っていませんが、オンライン化を前提とした取り組みが段階的に進められています。今後も随時法改正やガイドライン改定が発生すると想定されますので、引き続き注意が必要です。
オンライン服薬指導にシステム導入がおすすめ
当然ですが、オンライン服薬指導はオンライン環境が必要です。とはいえ、既に多くの患者がスマートフォンを保有していますので、患者側が新しく何かを用意する必要はほとんどありません。むしろ薬局側です。
薬局側としてもスマートフォンやタブレットがあれば一応はオンライン服薬指導が可能です。しかし、より効率的に行うのであればシステム導入がおすすめ。薬剤師の状態などを把握するなど、オンライン服薬指導を含めて調剤業務の効率化が進みます。システムも様々な物が登場していますので、いろいろとチェックしてみるとよいでしょう。