調剤過誤の事例
調剤過誤を起こさないためには、実際にどのような調剤過誤があったのかを知ることも大切です。そこで、そこで、2019年~2025年にどのような調剤過誤があったのか、そして考えられる対策についてを見てみるとしましょう。
2025年の調剤過誤事例
どれだけ細心の注意を払ったとしても完全にミスをなくすことは非常に難しいです。ここでは2025年に発生した調剤過誤事例を紹介しますので、事例を知って予防・対策を講じていきましょう。
分包紙の印字による服用間違い
往診した医師から「1回2錠 1日1回 朝食後10日分」の錠剤が処方され、錠剤を粉砕するように指示があった。処方箋を応需した薬剤師は指示通り薬剤を粉砕して1包に1回量である2錠を分包し、分包紙には薬品名と「朝食後」を印字し、薬袋には「1回1包」と記載。薬剤を受け取りに来た家族Xには1日1回1包ずつ服用するよう説明して交付したが、他の家族Yは分包紙の印字を見て1包に錠剤1錠が入っていると思い、患者に1回に2包を服用させていた。後日、家族Yから薬剤が足りないと薬局に電話があったことから服薬状況を確認したところ、患者は1回2包を服用していたことが発覚した。
※参照元:公益財団法人 日本医療機能評価機構 医療事故防止事業部「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 共有すべき事例」
(https://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/pdf/sharing_case_2025_01.pdf)
考えられる対策
錠剤を粉砕する際には分包紙の印字を用法のみにするか、薬剤名も印字するかは患者の状況に応じて判断すると記載がされている。本来は分包紙内の薬剤の薬剤名・錠数・服用時点などの情報を印字することが望ましいとされているが、分包紙に印字できる文字数が限られているため、処方内容や患者の服用・生活状況を考慮したうえで印字内容を選択する必要がある。
併用禁忌のヒヤリハット
発熱外来を受診して新型コロナウイルス感染症であると診断された患者に対し錠剤が処方された。薬剤師が患者のお薬手帳を確認したところ、他院の循環器科から複数の薬剤が 処方されており、処方された錠剤と併用禁忌である医薬品を服用していることがわかったため薬剤師が疑義照会を行ったところ、錠剤から別のカプセル剤に変更となった。発生原因としては発熱外来がひっ迫している状況であったため、処方医は患者の併用薬を十分に確認できなかったものと考えられている。
※参照元:公益財団法人 日本医療機能評価機構 医療事故防止事業部「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 共有すべき事例」
(https://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/pdf/sharing_case_2025_01.pdf)
考えられる対策
今回は疑義照会によって最悪の事態を免れたため、従来のシステムがうまく機能したともいえる。薬局においては医薬品の禁忌薬についての一覧表を作成するなどして、その医薬品が処方された際には確認漏れが防げるような仕組みづくりを行っている。
疑義照会による投与量の修正
錠剤5mg 1回1錠1日2回を継続服用している非弁膜症性心房細動の患者の処方箋を応需した事例。前回来局時から今回までの間に患者は80歳になっており、薬剤師から患者に対して「気になる症状がないか?」と確認したところ紫斑が出現していることを聴取した。さらに現在の体重が42kgであること、血清クレアチニン値は0.66mg/dLであることを確認したが、患者の年齢および体重が処方薬の減量基準に該当することから、処方医へ疑義照会を行った。その結果、錠剤2.5mg 1回1錠1日2回に減量になった。
※参照元:公益財団法人 日本医療機能評価機構 医療事故防止事業部「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 共有すべき事例」
(https://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/pdf/sharing_case_2025_02.pdf)
考えられる対策
本件の原因は「主治医が患者の年齢・体重の変化により原料基準に該当していることに気付かなかった」と想定されている。薬局においては減量基準のある医薬品が処方された際、患者の年齢や体重・腎機能の検査結果などを継続的に確認することを徹底している。患者が初めて処方を受けた時は原料基準に該当していないとしても、服用を継続しているうちに減量基準に該当することがあるため、医師・薬剤師が共に年齢や体重・腎機能の変化について定期的に把握することが必要である。
用量の入力間違い
70歳代の患者に対して医薬品1回4mg 1日1回 3日分が処方された事例。処方箋を応需した薬局のスタッフは、1回量である「4mg」を「4mL」と誤認してレセプトコンピュータに入力してしまった。調製を担当した薬剤師が入力間違いに気付いたため、1回量を「40mL」へ訂正した。発生原因としては当該医薬品の用量が「mg」(成分量)で処方された場合にはレセプトコンピュータへ「mL」(製剤量)換算して入力する必要があったため。しかし薬局のスタッフは単位の違いに気付かず、誤った用量をレセプトコンピュータに入力してしまっていた。
※参照元:公益財団法人 日本医療機能評価機構 医療事故防止事業部「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 共有すべき事例」
(https://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/pdf/sharing_case_2025_03.pdf)
考えられる対策
レセプトコンピュータに用量を入力する場合においては、処方箋に記載されている単位とレセプトコンピュータに入力する単位を必ず確かめるよう、スタッフへの周知徹底を実施。起こり得るエラーとしてスタッフ全体に周知して再発防止をするために、単位の誤認により用量の入力間違いが起きやすい薬剤をリスト化して薬局内で共有・展開している。
戻し間違いによる取り違い
患者に錠剤が処方され薬剤を交付したが、後日患者の家族から連絡があり、交付した28錠に異なる錠剤が3錠混ざっていることが発覚したため、薬剤の交換を実施した。患者が服用する前に家族が気付いたことから誤った錠剤の服用はなかった。発生原因としてはスタッフが薬剤棚に薬品を戻す際、誤って間違った棚に戻してしまったものと想定される。当該薬局では薬剤の取り違えを防ぐため、PTPシートのGS1コードの読み取りにより薬剤名を確認したうえで、重量を計測し錠数を確認する調剤監査支援システムを採用しているが、今回は、間違ったコードを読み取っていたことに加え、それぞれの錠剤において重量の差がなかったことから混入に気付けなかった。
※参照元:公益財団法人 日本医療機能評価機構 医療事故防止事業部「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 共有すべき事例」
(https://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/pdf/sharing_case_2025_04.pdf)
考えられる対策
複数の規格がある薬剤を採用している場合、薬剤棚にそれぞれの規格を強調する表示を行うことで誤認を防ぐ。薬剤を薬剤棚に戻す場合は薬剤監査支援システムでPTPシートのGS1コードを読み取り、薬剤名と棚番号を必ず確認してから戻す。コードの無い端数を薬剤棚に戻す場合、複数人で確認する。さらに同じ重量の薬剤が他に存在する可能性があることを認識し、鑑査の際には薬剤を目視でも確認する。
2024年の調剤過誤事例
業務を行うときは、誰しも調剤過誤を起こさないように注意を払っています。それでも、調剤過誤は毎年のように発生してしまいます。2024年に起こった調剤過誤事例について紹介します。
作業への慢心から起こった交付ミス
70代女性に薬の交付ミスが発生しました。「セファレキシンカプセル 4Cap」を渡すべきところ、誤って「セファレキシンカプセル 8Cap」を渡してしまった事例です。FAX受付後、入力時に前回Do処方から入力しました。処方監査、最終鑑査において確認不十分で、薬剤交付時にも患者様との確認が不十分だったことがミスの原因です。慣れにより手順を守らず、慌てて作業していたことが要因となっています。交付後すぐに発見したため、健康への影響は発生しませんでした。
※参照元:公益財団法人日本医療機能評価機構「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」
(https://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/phreport/view/100000470294)
考えられる対策
業務ごとの手順を各自再確認し、手技をしっかりと身につけることが重要です。他のスタッフにも正しく作業できているか確認してもらう体制を構築することが求められます。待ち時間が気になっても、落ち着いてひとつひとつの作業に集中することを意識すると同時に、作業を中断した場合は、改めて最初から確認しなければいけません。
手入力の漏れで交付ミスが発生
在宅患者が医師訪問後にFAXで調剤。ヘルパーが処方箋を持参しました。FAXで処方入力する際はQRコードの読み取りができないため、すべて手入力しなければいけません。その作業において、「ツムラ芍薬甘草湯2.5g/頓服 こむら返り時 10回分」の処方を入力漏れ、漏れたまま薬剤師も気づかず交付してしまいました。後日、調剤録チェックしている事務員が発見しました。患者に連絡の上、自宅に配達したという事例です。患者への影響はありませんでした。
※参照元:公益財団法人日本医療機能評価機構「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」
(https://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/phreport/view/100000470283)
考えられる対策
担当したのは歴25年の薬剤師です。FAXでは手入力をしなければいけないことは分かっていたものの、見落としが発生してしまいました。平素より利用されている患者であったことから、処方内容の確認について注意散漫になったことがミスの要因です。慣れからくる慢心がミスにつながらないよう手順を守る必要があります。以前にも同様のミスが起こっているため、薬局内で緊張感を保つことは不可欠です。
複数の処方箋の一枚を見落とし
A医院の処方箋とは別に他病院の処方箋も一緒に当薬局に出されていました。A医院の処方箋には気が付き調剤しましたが、他病院の処方箋は、明細書や領収書と一緒に折り曲げて渡されたために気が付かず、処方箋を患者に返してしまいました。後日、患者から、他病院の薬はどれですか?と連絡があり、調剤していないことに気が付いたという事例です。
※参照元:公益財団法人日本医療機能評価機構「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」
(https://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/phreport/view/100000470291)
考えられる対策
多くの患者様が処方箋と一緒に領収書や明細書を出すことから、今回も処方箋ではなくそうした別の書類だろうと思い込み、注意深く確認しなかったことがミスの直接的な原因です。担当した薬剤師の疲労・体調不良が重なり、確認を怠りました。業務フローとして、出された紙はすべて広げて、何の書類かを確認する手順を盛り込む必要があります。体調や気分に左右されず、確実な確認を行うには、必ずやるべきこととしてフロー化することが重要です。
2020年の調剤過誤事例
2020年、とある薬局に於いて起きてしまった調剤過誤についてをお伝えします。
監査でも気付かず患者が歩行困難に
本来はニュープロパッチ18mgを処方する患者にイクセロンパッチ18mgを処方してしまったとのこと。監査でも気付くことができなかったとのことで患者に払い出されてしまったようです。
患者はその場でいつもと違うものであることに気付いていたものの、包装が変わっただけだと思い、受け取った後に服用。14日間に渡って使用を続けた結果、体調の変化をもたらし、歩行困難になってしまったとのこと。そこで薬を調べてみると、いつもと違う薬を処方されていたことに気付き、薬剤部に問い合わせたところ薬剤間違いが発覚しました。
※参照元:公益財団法人日本医療機能評価機構「医療事故情報」
(http://www.med-safe.jp/mpreport/view/AC3118F9C2F8D4CFF)
考えられる対策
ダブルチェックの強化やピッキング者・最終監査者それぞれに確認者を設け、処方箋には薬剤注意の記号を付帯。
また、ピッキングの際、調剤の棚毎に分担していたものを、別々のピッキング者にするよう配置を変更するなどの対策が考えられます。
一般薬と麻薬の払い出し事例
選択的血しょう交換療法を目的とし、薬剤師Aが頓用の10%モルヒネ塩酸塩散を調剤し、薬剤師Bが鑑査しました。
鑑査した麻薬を他の一般薬と一緒に置いていたため、薬剤師Aは気づかずに一般薬と一緒に病棟へ払い出してしまったという事例です。病棟からの指摘で事象が発覚しました。
現行のシステムでは麻薬処方せんの薬剤部控えに、定期内服薬の場合「医療麻薬控え」と印字がされますが頓用では「入院必要時」と印字され麻薬と表示されないこと背景・原因となり発生しました。
参照元:公益財団法人日本医療機能評価機構 医療事故情報
(https://www.med-safe.jp/mpreport/view/AA062C9F66B724616)
考えられる対策
薬袋に麻薬であることが分かるような印字を行うことが対策として考えられます。
障害残存の可能性がある事故
肺臓炎に対する過料目的でステロイド投与が必要と判断されたため、プレドニンを処方する必要があった患者に対しデカドロンを処方したため過剰投与となった事例です。
薬剤の力価に対する知識が不足していたため思い込みによる処方で過剰投与となってしまい、調剤薬局からの疑義照会や近医からの指摘に対しても確認を行わず、思い込みでの投与を続けてしまい対応が遅れました。
参照元:公益財団法人日本医療機能評価機構 医療事故情報
(https://www.med-safe.jp/mpreport/view/A0F33EDBF97035526)
考えられる対策
ステロイド投与が必要となった場合には、上級医への相談を行うこと、及び疑義照会や指摘があった場合も上級医へ相談し、放置することない対応を行う対策が必要です。
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2019年の調剤過誤事例
患者は気付いていた処方ミス
外来処方でノルバスク1錠朝食後処方のところ、リピトール1錠で調剤。監査間違いに気付かず投薬してしまったとのこと。実は患者はいつもと違う薬であることに気付いていたものの、薬が変更になったと解釈し、42日間ほど服用。その後の再診時、血圧が高くなっていたことから違う薬を処方。さらに再診時、残りの薬を持ってきてもらった時に間違っている薬が入っていることに気付き、ミスが発覚。
※参照元:公益財団法人日本医療機能評価機構「医療事故情報」
(http://www.med-safe.jp/mpreport/view/A750BCEC5D97E16DA)
考えられる対策
最終確認など、様々な点に於いて確認の徹底。最終確認を怠っていた可能性があることから、気を引き締め、慣れている作業であっても確認を厳守する。
期限切れの薬を患者に渡していた
自動錠剤分包機内の薬剤の一部が期限切れを起こしていたとのこと。期限切れ確認担当の薬剤師に対し、他の薬剤師が質問したことで発覚。記録をたどると、7名の患者に期限切れの薬が調剤されてしまっていたとのこと。
※参照元:公益財団法人日本医療機能評価機構「医療事故情報」
(http://www.med-safe.jp/mpreport/view/A861482FBC90EB659)
考えられる対策
各種自動システムはとても便利ではあるものの、自動システムを運用・用意する側の意識も大切。特に在庫管理に関してはこまめに注意したり、この事例のように担当以外の薬剤師がチェックするなど、管理がルーティンになって疎かになっていたとしても他の薬剤師が気付ける環境を整えておくことが重要です。
添付文書の確認不足によるアクシデント
入院患者に対しインフルエンザ薬の予防内服をする際透析患者への投与量の確認があったが、別の質問を調べていたため近くにいたICT薬剤師に相談して自分で調べて確認をせず病棟に誤った返答をしたために発生した事例です。
通常であれば透析患者は1カプセルを1回内服し、5日後もう1回1カプセルを内服するべきところ、1日1回を連日投与していました。
業務に追われ薬剤部全体でバタバタしていたこと、かつ回答を要する質問が多かったため人に聞いて分かることは聞いて済ます、という対応を行ったことにより発生しました。
参照元:公益財団法人日本医療機能評価機構 医療事故情報
(https://www.med-safe.jp/mpreport/view/A75EACD2CF55119CA)
考えられる対策
初歩的ではありますが、煩雑さを理由にせずひとつずつ丁寧な対応を心がける必要があると考えられます。
必要な薬剤が無調剤となっていた事例
既往に食道静脈瘤破裂があり、EVL後で継続的に胃酸抑制剤を使用していたが、院外薬局で胃酸抑制剤が無調剤となっていた事例です。
入院時の持参薬確認に含まれていないことを発見し、調剤した院外薬局に確認を依頼して発覚しました。
当該薬剤が一包化されていないことに鑑査時に気づけなかったため発生した事例です。
参照元:公益財団法人日本医療機能評価機構 医療事故情報
(https://www.med-safe.jp/mpreport/view/A35FD458E126A7F48)
考えられる対策
一包化薬の識別コードや、錠数の確認・記録の徹底、投薬時に薬包から一包化薬を出して見せ、薬剤師による再度の確認・説明を行う対策が考えられます。