薬局の在宅訪問における課題とシステム活用
2026年度(令和8年度)の調剤報酬改定において、国が推進する「病院から在宅へ」のシフトがさらに強まっています。在宅医療のニーズが急増し、薬局における在宅訪問業務の重要性が増す一方で、多くの薬局が人的リソースの不足や業務負荷の重さという現実に直面しています。本記事では、データから見える在宅業務の実態を紐解き、調剤監査システムをはじめとするDXツールの活用によって課題を解決する方法を解説します。
2026年度調剤報酬改定と在宅医療ニーズの急増
団塊の世代がすべて後期高齢者(75歳以上)となったことで、在宅医療の需要は現実のものとして急増しています。厚生労働省の推計によると、2040年頃には85歳以上の在宅医療需要は2020年比で約62%増加する見通しであり、薬局には在宅医療の重要な担い手としての役割が求められています。
実績がなければ経営に影響する「在宅必須化」の流れ
調剤報酬改定の流れを見ても、在宅業務への参入は一部の薬局だけのものではなく、すべての薬局において不可欠な戦略となっています。地域支援体制加算の要件において在宅薬剤管理の実績が求められるなど、在宅訪問に取り組まない薬局に対する評価は厳しさを増しています。
2026年度の改定においても、医師・薬剤師の連携による在宅訪問の評価が新設・見直しされるなど、体制を整えた薬局を評価する仕組みが強化されました。しかし、評価が上がったからといって、人員に余裕のない薬局がすぐに参入できるわけではないのが実情です。
データで見る薬局在宅業務の実態とリソースの壁
一般社団法人日本保険薬局協会が発表した大規模調査(日本総合研究所委託研究)によると、薬局の在宅業務には時間的・構造的な課題があることが浮き彫りになっています。同調査では、在宅業務における薬剤師1人・1時間あたりの収益が、同時間あたりの給与費を下回るケースがあるなど、運営コストに見合わない実態が指摘されています。
1訪問あたり平均98分!外来業務の約8倍におよぶ時間的負荷
調査結果によると、薬剤師が個人宅を1回訪問する際にかかる合計作業時間は平均98分に達しています。これは、厚生労働省のタイムスタディ調査における「外来での処方箋1枚の処理時間(12分41秒)」の約8倍にあたります。薬局に勤務する1日あたりの平均薬剤師数が2.7人という限られた体制の中で、この時間を捻出することは容易ではありません。
| 業務内容 | 平均所要時間 |
|---|---|
| 移動にかかる時間 | 25分 |
| 調剤業務にかかる時間 | 24分 |
| 患者・家族との対話、薬学的管理業務 | 16分 |
| 訪問に紐づかない、多職種との連携時間 | 8分 |
| 訪問調整、事務連絡、問い合わせ対応 | 8分 |
| 在宅訪問の報告書作成時間 | 11分 |
| 訪問に紐づく、多職種との連携時間 | 6分 |
| 合計時間 | 98分 |
※参照元:一般社団法人 日本保険薬局協会「2026年度改定における在宅業務に係る要望事項」(https://secure.nippon-pa.org/pdf/demand_2025_09.pdf)
現場の薬剤師が直面する「効率化の障壁」
同調査の自由記述において、在宅業務を行う上で「効率が悪い」と感じる要素として、以下の項目が多く挙げられています。
- 患者宅への往復に要する移動時間(117件)
- 訪問時に患者や家族が不在であるための待ち時間や再訪問(94件)
- 多岐にわたる報告書・計画書の作成や、FAX送付の手間(91件)
- 一包化、お薬カレンダーのセット、残薬確認などの服薬管理(49件)
特に認知症患者への対応や時間外・臨時対応、夜間の緊急待機などは薬剤師への精神的負荷も高く、外来業務と両立しながらこれらの対応を行うには限界があります。だからこそ、薬局内の業務をデジタル化(DX)し、リソースを効率的に配分する体制への転換が必要です。
限られた人手で在宅訪問に対応するための
「調剤監査システム」活用法
キャパシティやリソースの課題を解決し、在宅訪問に必要な時間を創出するためには、薬局内における「対物業務」の徹底した効率化が鍵となります。その具体的なアプローチとして、調剤監査システムの展開が重要な役割を果たします。
1. 予製作業や調剤のスピードアップによる時間創出
在宅訪問を円滑に行っている薬局の工夫として、「あいている時間に予製(事前の調剤準備)を作っておく」という点が挙げられます。調剤監査システムを導入することで、バーコードスキャンや画像識別による正確なピッキングを迅速に行えるため、薬局内での調剤時間を大幅に圧縮できます。
店舗内でカレンダーセットや事前の薬剤準備を効率化できれば、1訪問あたり24分かかっている調剤業務の負担が軽減され、外来業務をストップさせることなく訪問薬剤師を送り出すことが可能になります。
2. 心理的負担の軽減と、少人数体制での安全性担保
限られた人数で外来と在宅を兼務する場合、薬剤師にかかる業務プレッシャーは増大します。焦りや疲労はヒューマンエラーを誘発する要因となりますが、調剤監査システムが機械的に規格違いや数量の誤りをチェックしてくれるため、薬剤師は「間違えていないか」という不安から解放されます。
ダブルチェックのために他の薬剤師の手を止める必要がなくなるため、1人薬剤師の店舗や、平均2.7人という限られた人員体制であっても、安全性を維持したまま在宅訪問の実績を積み上げることができます。
3. 対物業務の効率化が「質の高い対人業務・連携」に繋がる
システムによって調剤や監査の時間が短縮されれば、その余力を在宅報告書の作成や、医師・ケアマネジャーとの情報共有という「対人業務」に充てることができます。医療機関や介護事業者が求める重複投薬のチェックや残薬管理、副作用のフィードバックに時間を割くことで、地域医療チームからの信頼を高めることにも繋がります。
まとめ:リソース不足をITで克服し、
地域に頼られる薬局へ
2026年度の調剤報酬改定において在宅訪問の評価が見直されたことは経営的なメリットとなる一方で、アナログな運用のままでは薬局のリソースを逼迫させるリスクをはらんでいます。1訪問あたり98分におよぶ業務負荷を個人の努力だけでカバーするのは困難です。
調剤監査システムをはじめとするITツールをインフラとして展開し、薬局内の作業を自動化・効率化することこそが、外来と在宅を両立させるための確実な解決策です。人手不足を理由に諦めるのではなく、システムの力を借りて業務体制を再構築し、地域に必要とされる薬局としての基盤を築いていきましょう。